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2026.09.08

毎回ゼロから指示するAIは、分身になりません【うちが「会社の分身」を育てるためにやっている8つ・件数つき】

毎回ゼロから指示するAIは、分身にならない
毎回ゼロから指示するAIは、分身にならない

結論から言うと、AIは「使う」ものではなく「育てる」ものです。毎回ゼロから指示しているうちは、それは道具であって分身ではありません。うちでは判断のパターン、失敗の記録、確定した指示など8種類を1年かけて貯めてきました。この記事では、その8つを件数つきで全部出します。

毎回ゼロから説明している会社は、そこで止まります

説明した中身がどこにも残らないので、AIは翌日また新人に戻ります。

「前にも言ったのに」と思いながら、同じ前提をチャットに打ち直した経験はないでしょうか。うちの会社ではこう決めている、この言い方は使わない、この客先はこういう事情がある。人に対してなら一度で済む説明を、AIには毎回しています。

原因は AI の性能より手前にあります。渡した情報を残す場所を、こちらが作っていない。人なら勝手に覚えてくれますが、AI は覚える場所を用意しない限り、毎回まっさらな状態で始まるのです。

会社で見ると、もう1つ困ったことが起きます。AI に上手に指示できる人が1人いても、その人の頭の中にしか前提が無いので、担当が変わった瞬間に全部消えます。個人の使い方の上手さは、会社の資産になりません。

うちは1人の法人ですが、同じことが自分の中で起きていました。昨日決めたことを今日また説明している。それを止めるために始めたのが、これから書く8つです。

うちが分身を育てるためにやっている8つ

やっていることは「決めたこと・失敗したこと・言った言葉」を、種類ごとに分けて残しているだけです。

数字はすべて2026年9月8日に数え直した実測です。中身は社内のものなので、種類と件数まで出します。

図解: 分身を育てるためにやっている8つ

1. 判断のパターンを貯める(114件)

「このときは、こう決める」を1件ずつ書いています。たとえば「同じ成果物の古い版は、採用版が決まったら消す」「迷ったら残す。消すのはいつでもできる」のような粒度です。

1件は5行ほどです。大事なのは、判断そのものよりなぜそう決めたかを隣に書くことでした。理由が無いと、似た場面で AI が別の判断をします。

2. 日々のログを取る(37日分)

その日に何を決めたか、何に引っかかったかを、日付ごとに残しています。運用ルールの筆頭は「生の発言を、言い回しごと残す」です。

要約すると自分の言葉ではなくなります。「時間はかけていい。コストはかけたくない」のような、その場で出た言い方をそのまま置いておくと、あとで AI が同じ温度で判断できます。

3. 文体を分析する(書き方ガイド17本)

クライアントへの返信、有料記事、コピーの型など、書く場面ごとに「自分ならこう書く」をまとめています。

有料記事の文体は、AI が書いた初稿と自分が仕上げた版の差分から抽出しました。自分で「こういう文体です」と説明するより、直した跡を見せるほうが正確でした。

4. 失敗を記録する(179パターン・5,736行)

やってはいけない判断を、起きた事実つきで残しています。8つの中でいちばん量が多く、いちばん効いています。

「〜してはいけない」だけ書いても AI は守りません。何をして、何が壊れて、清水がどう言ったかまで書くと、同じ場面で止まるようになります。

5. 採否の基準を起こす(489行)

ナレッジや提案に ○ と × を付けるたびに、「なぜ ○ にしたか」を発言から書き足したものです。

これがあると、次に似た提案が来たとき、AI が先に「前回この理由で × でした」と言えます。判断を求められる回数が減りました。

6. 確定した指示をルールにする(34本)

「これは今後こうする」と決まったものを、1本1ファイルで持っています。34本のうち31本には、決めたときの発言をそのまま入れてあります。

ルールの文だけだと、時間が経ったときに「なぜこう決めたのか」が分からなくなります。発言が隣にあると、状況が変わったときに直す判断ができます。

7. 人物データを持つ(経歴と数字213行、思考の癖175行、全体像185行)

経歴、肩書き、実績の数字、呼び方、作業のスタイル。それから「数字の揺れ」の一覧です。

媒体によって「3か月で」と書いたり「90日で」と書いたりしていた数字を、どれを採用するか決めて一覧にしました。AI がプロフィール文を書くたびに数字がぶれる問題は、これで消えました。

8. 案件ごとに生の発言を残す(80ファイル)

進行中の案件ファイルに「清水さんの指示(原文に近い形)」という枠を作り、指示をそのまま貼っています。

案件の途中で担当の AI セッションが変わっても、前の指示が原文で読めます。「たしかこう言っていたはず」が無くなりました。

いちばんの発見は、材料がもう手元にあったことです

貯めていなかったのではなく、貯めた場所がばらばらだっただけでした。

8つを数えていて気づいたことがあります。上の 3〜8 は、AI への指示書、案件の記録、ルールの控えとして、別の目的で書いたものでした。分身のために書き始めたものは、1 と 2 と 7 だけです。

分身用のフォルダに入っているのは 1 と 2 と 7 だけで、あとは開発用の置き場に散らばっていました。それでも、種類ごとに数えたら8つ揃っていた。

図解: 材料はもう手元にある

会社でも、たぶん同じです。AI とのチャット履歴、会議の議事録、社内チャットのやりとり、先輩が後輩に送ったメモ。判断の理由も、失敗の記録も、言い回しも、そこに全部あります。

やることは新しく書き始めることではなく、散らばっているものを AI が読める場所に束ねることです。元の場所から動かす必要はありません。元の用途が壊れます。読ませる側で束ねます。

4段で見ると、自社がどこにいるかが分かります

渡す、継ぎ足す、問う、投げる。この順番でしか進めません。

図解: 分身を育てる4段

1段目は「渡す」です。判断の基準、やってはいけないこと、過去の失敗を AI に渡します。上の 1・4・5・6・7 がここです。

2段目は「継ぎ足す」です。見たこと、聞いたこと、決めたことを、その都度戻します。上の 2・3・8 がここです。

3段目は「問う」です。「どう思う」「ここはどうすべきだ」と、指示ではなく相談に使います。

4段目は「投げる」です。自分が寝ている間、別の仕事をしている間に働かせます。

正直に書くと、うちは 1段目と 2段目までです。3段目と4段目はこれからで、「もう分身に任せています」とは言えません。ただ、3段目に進むのに新しく貯めるものは無いことが分かりました。散らばっているものを束ねれば、相談相手にはなるはずです。

そして多くの会社は、1段目の「渡す」をまだしていません。毎回ゼロから説明しているなら、そこから始めます。

会社で始めるなら、最初の1週間はこの3つです

判断基準を10個、やらないことを5個、過去の失敗を3つ。これだけ書けば1段目は始まります。

判断基準は「見積りは必ず2社取る」「金額が10万円を超えたら社長に確認」のような、社内で暗黙になっているものです。10個で十分です。

やらないことは「お客様の名前をチャットに貼らない」「価格の話は AI に決めさせない」のような、線引きです。5個あれば、AI が踏み外す場面の大半を止められます。

過去の失敗は、いちばん書きにくくて、いちばん効きます。何が起きて、誰がどう言ったかを、事実だけで3つ書いてください。

この3つを1つのファイルにして、AI に毎回最初に読ませます。それだけで、翌日の AI が昨日の続きから始まります。

当社では、この「渡す」から「継ぎ足す」までを社内の1人が回せるようになる、Claude Code のスクールを運営しています。非エンジニアの方が、自社の判断基準を AI に読ませるところから始めます。

裏付けを1つだけ

「自分自身のエージェントを持たなかったら、その人の進化は終わる」。これは孫正義さんの言葉です。

SoftBank World 2026 の特別講演(2026年7月14日)で、孫正義さんはこう述べています。自分の思考体系と経験を、自分の所有するエージェントに貯め続けて、育てていく。持たない人の進化は、そこで終わる。

うちがやっている8つは、この話を聞く前から始めていたものです。講演を聞いて、やっていることの名前が付いたという感覚でした。

(出典: 孫正義 特別講演「2040年のASIエコノミー」SoftBank World 2026・39分10秒〜41分50秒 https://youtu.be/dTO-tYqZOZg )

よくある質問

AI に会社の判断基準を渡すとき、何から書けばいいですか?

社内で「言わなくても分かる」ことになっている基準からです。見積りの取り方、金額の承認ライン、お客様への言葉づかい。10個書けば最初の1週間には足ります。

要約してまとめたほうが、AI には読みやすいのではないですか?

読みやすくはなりますが、自分の判断ではなくなります。「時間はかけていい、コストはかけたくない」を「効率重視」と要約した時点で、温度が消えます。言い回しごと残してください。

失敗の記録は社内に見せたくないのですが、それでも書くべきですか?

社外に出す必要はありません。AI だけが読む場所に置きます。うちの179件も、中身は社内のもので、この記事にも件数しか書いていません。

情報を1か所に集め直す時間が無いときは、どうすればいいですか?

集め直さなくて大丈夫です。議事録もチャットもそのままの場所に置いて、AI に読ませる側でつなぎます。元の場所から動かすと元の用途が壊れるので、動かさないほうが安全です。

社内に AI に詳しい人がいなくても始められますか?

詳しい人がいなくても、1段目の「渡す」は文章を書く作業です。判断基準10個、やらないこと5個、失敗3つ。ここまでは業務を知っている人のほうが向いています。

ChatGPT のメモリ機能で十分ではないですか?

個人で使う分には便利です。ただし、担当者のアカウントに紐づくので、その人が異動した時点で会社には残りません。会社の分身にするなら、会社が持つファイルに書くほうが確実です。

どのくらいの期間で「分身」と呼べるものになりますか?

うちは1年かけて8種類が揃いましたが、最初の1週間で「昨日の続きから始まる」感覚は出ます。分身と呼べるかどうかより、毎回の説明が消えることのほうが先に効きます。


毎回ゼロから説明している状態を、社内の1人が変えられるようになる。当社のスクールでは、自社の判断基準を AI に読ませるところから、非エンジニアの方と一緒に進めています。

高額な委託費を払う前に、社内に1人、AIがわかる人を

筆者:株式会社スターストリーム・スタジオ 代表 清水 昴

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