新NISA で人気のオルカン(全世界の株にまとめて投資する投資信託)は、1万円のうち約2,350円が、AIに大きなお金を使っているアメリカなどの大きな会社8社に入っています。
だから、世界のお金がAIに集まるニュースも、AIからお金が引きあげられそうなニュースも、自分の積立の話になります。今週は、その両方のニュースが同じ日に出ました。
お金が集まる道と、引きあげる合図の見方を知っておくと、「AIバブル」という言葉を聞いても慌てずにすみます。
この記事は「こういうことがありました → 今日はこれを学びましょう」の順で進みます。前の2回は中東と原油の話でした。今回はAIとお金の話ですが、じつは中東ともつながっています。
こういうことがありました ― AIにお金を集める話と、集まらなかった話が同じ日に
10月9日、AIをめぐるお金のニュースが2つ、同じ日に出ました。1つは「集める話」、もう1つは「集まらなかった話」です。
1つ目は、日本の会社ソフトバンクグループの話です。ソフトバンクグループは、携帯電話のソフトバンクの親会社で、世界中のAIの会社などにお金を出している投資の会社です。
イギリスの経済新聞フィナンシャル・タイムズ(FT)が、「社長の孫正義さんが、中東の湾岸の国のお金持ちや投資家に、最大1000億ドル(約15.8兆円)を出してもらえないか話している」と報じました。
相手はアラブ首長国連邦(UAE)などの有力者で、話し合いは数週間続いているそうです。
集めたお金は、会社を買い取り、AIなどの新しい技術でその会社のもうけを上げるためのファンド(たくさんの人からお金を集めて、まとめて投資する入れ物)にする計画だと伝えられています。ただし、話し合いはまだ初めの段階で、まとまるかどうかは決まっていません。
ソフトバンクグループは、取材にコメントしていません。
2つ目は、オーストラリアの話です。AIを動かすための建物「データセンター」をつくる会社 Firmus(ファーマス) が、10月9日、株式の上場をとりやめました。上場とは、会社の株を証券取引所に出して、誰でも売り買いできるようにすることです。
集める予定だったお金は約70億オーストラリアドル(約7,700億円)で、オーストラリアでとても大きな上場になるはずでした。

「お金を集めたい」という同じ話なのに、1つは大きなお金が動きそうで、もう1つはお金が集まりませんでした。この違いに、今日学ぶことが詰まっています。
そもそもどこの話? ― 石油の国のお金が、アメリカのAIへ
今回の話には、お金を出す湾岸の国、AIの会社が集まるアメリカ、上場をやめたオーストラリア、そして日本が出てきます。

地図の色の意味はこうです。
- UAE(アラブ首長国連邦)(赤):中東のペルシャ湾ぞいにある国です。ドバイという大きな街があります。石油と天然ガスを売って、お金持ちになりました
- サウジアラビア(オレンジ):UAEのとなりの、中東でいちばん大きな国です。前の2回に出てきた、日本が使う原油の約4割を売っている国です
- アメリカ(緑):AIの会社がいちばん集まっている国です
- オーストラリア(黄色):上場をやめたAIの会社 Firmus がある国です
- 日本(青):ソフトバンクグループの国で、私たちの国です
湾岸の国のお金は、どこから来て、どこへ行くの?
サウジアラビアやUAEのように、ペルシャ湾のまわりにある国を「湾岸の国」といいます。どの国も、石油や天然ガスを世界に売って、たくさんのお金を手にしてきました。
そのお金をただ貯めておくのではなく、国がつくった大きなファンド(政府系ファンド)に入れて、世界中の会社に投資しています。石油はいつか売れなくなるかもしれないので、石油のかわりにお金を生んでくれるものを、今のうちに育てておきたいのです。

その育てたい先の1つが、今いちばん勢いのあるAIです。つまり、中東の原油の値段が上がると、湾岸の国のお金が増え、そのお金がAIに流れ込みやすくなる、というつながりがあります。前の2回で見た「原油」の話は、ここでAIの話ともつながるのです。
お金が集まる道と、引きあげる合図
AIには「お金が集まる道」があり、その道からお金が引きあげられそうなときには「合図」が出ます。

お金が集まる道 ― AIは、とにかくお金がかかる
AIを動かすには、何万台ものコンピューターを並べたデータセンターが要ります。データセンターは建物も機械も高く、電気もたくさん使います。
だからAIの会社は、自分のもうけだけでは足りず、外からお金を集めます。そのお金を出すのが、湾岸の国のファンドや、ソフトバンクグループのような投資の会社、そして世界中の投資家です。
お金が集まるほど、AIの会社は大きくなり、その会社の株の値段も上がりやすくなります。今回のソフトバンクグループの話は、この「集まる道」がまだ太いことを示すニュースです。
引きあげる合図 ― 「その値段は高すぎない?」と言われたとき
一方の Firmus は、会社全体の値段を約440億オーストラリアドル(約4.8兆円)として上場しようとしていました。ところが、買いたい人が思ったほど集まりませんでした。
オーストラリアの報道は、とりやめた理由として次のことを伝えています。
- オーストラリアの年金(老後のお金を運用している大きな財布)などが、思ったほど買いたがらなかった
- 「この会社にその値段は高すぎるのでは」という疑問が出た
- 売上はまだ小さく、もうけの多くを、これから動く予定の設備に頼っていた
オーストラリアの公共放送ABCは、理由の1つとして「AIバブルへの心配」も挙げています。バブルとは、ものの値段が本当の価値よりずっと高くふくらんでしまうことです。ふくらんだ風船が、いつかしぼむようなものです。
お金を出す人が「その値段に首をかしげ始めた」というのが、引きあげる合図です。
お祭りの屋台で考えると、道と合図は1つの話です
AIのお金の話は、町のお祭りの屋台にたとえると、1つの話として見えてきます。

ある町のお祭りで、いちばん人気なのが「AI屋台」です。お客さんが長い行列をつくっています。
そこへ、遠い町で石油を売って大金持ちになったおじさんがやってきて、「もっと屋台を増やそう」とお金を出す相談を始めました。これがお金が集まる道です。湾岸の国のお金が、ソフトバンクグループを通ってAIに流れ込むのと同じです。
一方、別の人が「新しいAI屋台を開くので、一緒にお金を出してくれる人を募集します。1口はこの値段です」と呼びかけました。ところが、まわりの人は「まだお客さんも少ないのに、その値段は高すぎない?」と首をかしげ、お金を出す人が集まらず、開店を見送りました。
これが引きあげる合図です。Firmus の上場とりやめと同じです。
オルカンを持つというのは、お祭りの屋台ぜんぶに、少しずつお金を出す券を持つようなものです。そして、その券のかなりの部分が、いちばん人気のAI屋台に入っています。
日本の私たちには ― オルカン1万円のうち約2,350円がAIの大きな会社へ
オルカンは約2,400社に分けて投資していますが、1万円のうち約2,350円は、AIに大きなお金を使うアメリカなどの大きな会社8社に入っています。
オルカン(eMAXIS Slim 全世界株式〈オール・カントリー〉)の9月30日時点の中身を見ると、いちばん多いのは、AIの頭脳になる半導体をつくる NVIDIA で、5.0%です。半導体とは、コンピューターの中で計算をする部品のことです。
ほかにも Apple、Microsoft、Google の親会社 Alphabet、Amazon などが並びます。

この8社を合わせると23.5%です。1万円分持っていたら、約2,350円がこの8社に入っている計算です。また、オルカンの約63%はアメリカの会社です。
なぜこんなに偏るのかというと、オルカンのような投資信託は、会社の大きさ(時価総額)に合わせてお金を分ける仕組みだからです。AIで大きく育った会社ほど、たくさん入ります。
新NISA の口座は、2025年12月末で2,821万口座あります。そのなかで人気のオルカンやS&P500(アメリカの代表的な500社)の投資信託を積み立てている人は、知らないうちに、AIの大きな会社にけっこうな割合でお金を出していることになります。
S&P500に連動するETF(証券取引所で売り買いできる投資信託)では、同じような顔ぶれの7社だけで約36%、1万円のうち約3,570円です。
ここで大事なのは、1つの合図で全部が崩れるわけではないということです。10月9日、Firmus の上場とりやめのあとに開いたアメリカの株式市場では、株価はむしろ上がりました。ダウ平均(アメリカの代表的な30社の株価の平均)は423ドル高です。
報道では、会社の決算発表を前にいい業績が期待されたことや、AIへの投資が支えてきたアメリカの景気が弱まる心配がやわらいだことが、理由として伝えられています。
合図は1つだけで判断せず、「同じような合図が続けて出ているか」を見ることが大切です。
投資の目線で見ると ― AIのお金の流れで、追い風・向かい風になりやすい業種
AIにお金が集まり続けるか、引きあげられるかで、同じ業種が追い風にも向かい風にもなります。

お金が集まり続けると、次のような会社が追い風を受けやすくなります。
- 追い風:半導体の会社、データセンターの建物や電気の設備をつくる会社、電気を売る会社など。AIのためにものを売る側の会社
反対に、引きあげる合図が続くと、風向きが変わります。
- 向かい風:同じ業種の会社。「これからもっともうかる」という期待で値段が高くなっているぶん、期待がしぼむと値下がりも大きくなりやすいからです
オルカンやS&P500は、AIの会社だけでなく、たくさんの業種の会社をまとめて持っています。だから、AIの会社が下がった日も、ほかの会社がそれをやわらげてくれることがあります。
ただ、AIの大きな会社の割合が大きいぶん、AIのニュースで動きやすくなっていることは知っておきたいところです。
※特定の銘柄(株を売り買いできる1つ1つの会社)をすすめるものではありません。
こうした「お金の守り方」の考え方をまとめた資料は、記事の最後に置いておきました。
今日の言葉 ― 「時価総額」
時価総額は、その会社の株を全部買ったらいくらになるかを表す「会社全体の値段」で、オルカンの中身の割合を決めるものさしです。

- 計算のしかた:株1株の値段 × 会社が出している株の数
- オルカンとの関係:時価総額が大きい会社ほど、オルカンの中でたくさんの割合をしめます
Firmus は、会社全体の値段(時価総額)を約4.8兆円として上場しようとしましたが、「その値段は高すぎる」と感じた人が多く、お金が集まりませんでした。時価総額は、みんながその会社に「これくらいの価値がある」と思っている値段です。
みんなの期待が上がれば大きくなり、期待がしぼめば小さくなります。
よくある質問
オルカンは全世界に分けて投資しているのに、なぜAIのニュースで動くのですか
会社の大きさ(時価総額)に合わせてお金を分ける仕組みなので、AIで大きく育ったアメリカなどの会社がたくさん入っているからです。9月30日時点では、上位の大きなIT企業・半導体8社だけで23.5%、1万円のうち約2,350円でした。
ソフトバンクグループの15兆円は、何に使うお金ですか
報道によると、会社を買い取って、AIなどの新しい技術でその会社のもうけを上げるためのファンドにする計画です。中東の湾岸の投資家に最大1000億ドル(約15.8兆円)を相談している段階で、まとまるかどうかはまだ決まっていません。
なぜ中東の国がAIにお金を出すのですか
石油や天然ガスを売って手にしたお金を、国のファンドで世界に投資しているからです。石油がいつか売れなくなるときに備えて、石油のかわりにお金を生んでくれるものを育てておきたいのです。
Firmus はなぜ上場をやめたのですか
買いたい人が思ったほど集まらなかったからです。報道では、会社の値段が高すぎるのではという疑問や、売上がまだ小さく、もうけの多くをこれから動く設備に頼っていることが理由として伝えられています。
上場とは何ですか
会社の株を証券取引所に出して、誰でも売り買いできるようにすることです。上場するときに新しく株を売り出して、会社を大きくするためのお金を集めます。
「AIバブル」とは何ですか
AIの会社の値段が、本当の価値よりずっと高くふくらんでいるのでは、という心配のことです。バブルは、ふくらんだ風船がいつかしぼむように、値段が急に下がることがあります。ただ、今がバブルかどうかは、そのときには誰にも分かりません。
オルカンを積み立てています。どう考えればいいですか
まず、自分の積立の中にAIの大きな会社がどれくらい入っているかを知ることです。そのうえで、AIのニュースが出たら「お金が集まる話か、引きあげる合図か」を見ます。合図は1つだけで判断せず、続けて出ているかを見ることが大切です。
売るか持ち続けるかは、一人ひとりの目的によって変わります。
おわりに ― ニュースは、自分のお金の話です
ソフトバンクグループの15兆円も、オーストラリアのAIの会社の上場とりやめも、たどっていけば新NISA のオルカンの話になります。前の2回は、中東の原油がガソリン代と日経平均(日本を代表する225社の株価の平均)に届く道を見ました。
今回は、その中東のお金がAIに流れ込み、私たちの積立にまで届く道を見ました。
このシリーズのテーマは、世界で起きたことを1つずつ取り上げて、小学生でもわかる言葉で「今日はこれを学びましょう」と読み解くことです。
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