ブラジルの大統領選挙は、10月4日の第1回の投票でだれも半分の票をとれず、10月25日に決選投票(上位2人だけでもう一度投票すること)をします。結果はまだ出ていません。それなのに、第1回の翌日の10月5日、ブラジルの株をまとめた数字(ボベスパ)は1日で約7.7%上がり、ブラジルのお金「レアル」も高くなりました。
選挙は、ふつうは政治のニュースです。でもお金の世界では、「次の政府は、国のお金をどう使いそうか」を先に読む材料になります。今日は、このニュースから投資家は結果が決まる前に先回りして売り買いするしくみを見ていきます。
ニュースとお金のつながりをつかみたい人の手がかりになる話です。
こういうことがありました ― 第1回は大接戦、決選投票は10月25日
10月4日の第1回の投票では、フラビオ・ボルソナロ氏が約47%、いまの大統領のルラ氏が約45%でした。どちらも半分に届かなかったので、10月25日に2人だけで決選投票をします。

時間の順番に並べると、こうなります。
- 9月25日〜10月2日:投票の前の1週間で、ボベスパは183,477から192,115へ、約4.7%上がりました
- 10月4日(日):第1回の投票。フラビオ氏(前の大統領ジャイール・ボルソナロ氏の息子)が約47%、ルラ大統領が約45%でした
- 10月5日(月):ボベスパは192,115から206,912へ、1日で約7.7%上がりました。ドルとレアルの交換では、1ドルと交換するのに要るレアルが約4%少なくなりました(レアルが高くなった、ということです)
- 10月9日:ボベスパは209,067と、いちばん高い終値をつけました
- 10月15日:選挙の裁判所の判事が、Meta(フェイスブックやインスタグラムの会社)に、2人の候補を平等に扱うよう命じました
- 10月19日(月):ルラ大統領の陣営が「Meta のしくみ(おすすめの表示やAI、広告の審査)が相手に有利に働いた」として、フラビオ氏の組の立候補の登録を取り消すよう、選挙の裁判所に求めると報じられました。Meta は「まったくの虚偽」と否定しています
- 10月20日:ボベスパは208,295.98で、前の日より1.57%上がりました
世論調査(選挙の前に人の考えを聞いてまとめた数字)の1つでは、10月8日の時点でフラビオ氏49%、ルラ氏45%で、どちらが勝つかはまだ分からない接戦です。
ここで1つ、気をつけておきたいことがあります。報道が「選挙が理由で株が動いた」と書いているのは、第1回の翌日(10月5日)と10月9日の動きです。10月20日の上がり方を選挙と結びつけた報道は見つかっていません。
毎日の上がり下がりを、全部選挙のせいにしないほうが安全です。
そもそもどこ? ― 地球の反対側の大きな国と、お金「レアル」
ブラジルは、南アメリカでいちばん大きな国です。面積は世界で5番目、日本の約22.5倍あります。

地図では、2つの国に色を付けました。
- ブラジル(赤):南アメリカの国です。人口は約2億1,200万人。首都はブラジリアで、いちばん大きな町はサンパウロです。サンパウロには、ブラジルの株を売り買いする市場があります
- 日本(青):私たちの国です
ブラジルの人が話す言葉はポルトガル語で、使っているお金はレアルです。日本のお金が「円」、アメリカのお金が「ドル」であるように、ブラジルのお金が「レアル」です。
レアルが「高くなる」とは
レアルが高くなるとは、1レアルと交換できる円やドルが増えることです。ニュースでは「レアル高」と言います。

たとえば、1レアルが30円で交換できたのに、31円で交換できるようになったら、レアルは円に対して高くなった(レアル高)、ということです。反対に、29円になったら、レアルは安くなった(レアル安)と言います。
今回は、10月2日に1レアル約30.2円だったのが、10月20日には約31.5円になりました。約4%のレアル高です。
つまり、ブラジルのお金を欲しがる人が増えた、ということです。外国の投資家がブラジルの株を買うには、まず自分のお金をレアルに交換します。株が買われるときは、レアルも一緒に買われやすいのです。
なぜ結果が出る前に株が上がったのか ― 投資家は「次の政府」を先読みする
投資家は、選挙の結果が出てから動くのではなく、「この人が勝ちそうだ」と思った時点で、その先の国のお金の使い方を予想して先に売り買いします。

つながりを、順番に並べてみましょう。
- 1つ目のつながり:第1回の結果で「政府が代わるかもしれない」と考える人が増えた。いまの大統領のルラ氏より、相手のフラビオ氏の票が多かったからです
- 2つ目のつながり:政府が代わると、国のお金の使い方が引き締まる、と見る投資家がいた。ブラジルの報道では、運用会社が「政府が代わると、国の出費の管理や金利(お金を借りるときに上乗せして払う利息の割合)の見通しがよくなると見る投資家がいる」と説明しています
- 3つ目のつながり:「ブラジルにお金を入れても大丈夫そうだ」と、外国からお金が入った。報道は、投資家が「ブラジルの資産の危なさ(リスクプレミアム。危ない分だけ上乗せして求めるもうけ)が下がる」と考えて、株とレアルを買ったと書いています
ただし、同じ報道は「国の出費の計画はまだ具体的になっていないので、がっかりする中身なら反動もありうる」とも書いています。予想で買われた分は、予想が外れたときに売られやすい、ということです。
このように、まだ起きていないことを先に値段に入れることを「織り込む」と言います(最後の「今日の言葉」でくわしく見ます)。
国が高い金利を払っている国
ブラジルの中央銀行(国のお金の量や金利のもとを決める銀行)が決める政策金利は、いま13.75%です。2026年のはじめは15.00%で、そこから5回下げてきました。
政策金利は、銀行どうしがお金を貸し借りするときの金利のもとになる数字です。ブラジルは、物価の上がり方をおさえるために、この数字をとても高くしています。
金利が高い国では、お金を預けたり貸したりすると利息(借りたお礼に上乗せして払うお金)がたくさんつくので、外国からお金が入りやすい面があります。一方で、会社がお金を借りるのは大変になります。
復習:金利は、中央銀行のアクセルとブレーキ
第4回では、中央銀行は、景気が冷えたら金利を下げるアクセル、物価が上がりすぎそうなら金利を上げるブレーキを踏む、という話を見ました。

ブラジルは、物価をおさえるために強いブレーキ(高い政策金利)を踏んできて、2026年は少しずつそのブレーキをゆるめています(利下げ)。国のお金の使い方が引き締まれば、物価も落ち着きやすく、ブレーキをもっとゆるめられるかもしれない。
投資家が政府のお金の使い方を気にするのは、こうした理由もあるのです。くわしく知りたい方は、こちらからどうぞ。

先回りの売り買いを、遠足の天気予報にたとえると
上の説明(結果が決まる前に、予想で先に売り買いする)を、遠足の前の日の天気予報にたとえてみます。

あさって、学校の遠足があります。ずっと「雨」の予報だったので、お店の人はお弁当の材料を少しだけ並べていました。ところが、きのうの夕方の予報が「晴れ」に変わりました。すると、遠足の当日を待たずに、今日のうちに卵やウインナーがどんどん売れていきます。
でも、天気はまだ決まっていません。あさって本当に雨が降ったら、多めに買った材料は余ってしまい、お店は安く売ることになります。
たとえの中のものと、本文の話の対応は次のとおりです。
- 遠足の当日が、10月25日の決選投票にあたります
- 「晴れ」に変わった天気予報が、第1回の投票の結果と世論調査にあたります
- 当日を待たずに材料が売れることが、決選の前にブラジルの株とレアルが買われたことにあたります
- 雨が降って材料が余ることが、予想が外れたときに、先に買われた分が売られることにあたります
日本の私たちには ― レアルで運用する投資信託にも届く
日本でも、ブラジルのお金(レアル)で債券(国や会社の借用書)などに投資する投資信託(たくさんの人から集めたお金を、専門の会社がまとめて運用する商品)が売られています。こうした投資信託は、レアルが高くなると円で見たときの値打ちが上がり、レアルが安くなると下がります。
日本の私たちにとって、このニュースは「地球の反対側の選挙の話」だけではありません。2つの見方ができます。
1つ目は、通貨(国のお金)の値段は、その国の政治の先行きで動くということです。今回、レアルは第1回の投票のあとに円に対して約4%高くなりました。レアルで運用している人にとっては追い風でした。

ただし、決選の結果しだいでは、反対に動くこともあります。
2つ目は、株の値段は、結果ではなく「予想」で先に動くということです。決選の日に大きく動くとは限らず、すでに予想が値段に織り込まれている分、結果が予想どおりなら動きが小さく、予想と違えば大きく動くこともあるのです。
投資の目線で見ると ― 選挙の前後の追い風・向かい風
選挙の前に「予想」で買われた国の株やお金は、予想が当たれば追い風が続きやすく、外れれば向かい風が吹きやすくなります。

- 追い風になりやすい:その国の国内でもうけている会社の株(店・銀行など)。国の出費が引き締まって物価と金利が落ち着く、と見られると買われやすくなります
- 追い風になりやすい:その国のお金で運用している投資信託。お金が高くなると、円で見た値打ちが上がります
- 向かい風になりやすい:予想と違う結果が出たとき。先に買われた分が、一度に売られやすくなります
ただし、選挙の前の株の動きは、世論調査の数字1つでも大きく変わります。「何が理由と報道されているか」と「どこまで予想が値段に織り込まれているか」を分けて見ると、1日のニュースにあわてて動かずにすみます。
ブラジルでは、10月25日の決選投票の結果と、そのあとに出てくる国のお金の使い方の計画が、次の見どころです。
※特定の銘柄(株を売り買いできる1つ1つの会社)をすすめるものではありません。
こうした「お金の守り方」の考え方をまとめた資料は、記事の最後に置いておきました。
今日の言葉 ― 「織り込む」
「織り込む」は、まだ起きていないことを、みんなが予想して、先に値段に入れてしまうことです。ニュースでは「市場は選挙の結果を織り込んだ」のように使います。

- 誰が:株やお金を売り買いする、世界中の投資家です
- 何を:選挙の結果・会社の決算・金利の上げ下げなど、これから起きることの予想を
- どうする:起きる前に売り買いして、先に値段に入れてしまいます
- 今回は:第1回の投票の前の1週間でもボベスパは約4.7%上がり、ブラジルの報道は「一部の投資家は数日前から結果を先回りしていた」と伝えています
「よいニュースなのに株が下がった」「結果が出たのに動かない」のは、たいてい、そのニュースがもう織り込まれていたからです。ニュースを見るときは、「みんなはどこまで予想していたか」を考えると、値動きの意味が見えやすくなります。
よくある質問
ブラジルでは、何が起きているのですか
大統領選挙の第1回の投票が10月4日にあり、フラビオ・ボルソナロ氏が約47%、ルラ大統領が約45%でした。どちらも半分に届かなかったので、10月25日に2人だけで決選投票をします。
結果が出ていないのに、なぜ株が上がったのですか
投資家が「政府が代わると、国のお金の使い方が引き締まる」と予想して、先に株とレアルを買ったからです。ブラジルの報道は、投資家がブラジルの資産の危なさを低く見直した、と伝えました。
レアルとは何ですか
ブラジルのお金です。日本の円、アメリカのドルと同じです。1レアルと交換できる円が増えることを「レアル高」、減ることを「レアル安」と言います。
レアルはどれくらい高くなったのですか
1レアルが何円かという数字は、10月2日の約30.2円から、10月20日の約31.5円になりました。約4%のレアル高です。
Meta をめぐる訴えとは何ですか
ルラ大統領の陣営が「Meta のしくみが相手に有利に働いた」として、フラビオ氏の組の登録を取り消すよう選挙の裁判所に求めると報じられました。Meta は「まったくの虚偽」と否定しています。どちらが正しいかは、まだ決まっていません。
決選投票の日に、株は大きく動くのですか
動くとは限りません。予想がすでに値段に入っている(織り込まれている)分、結果が予想どおりなら動きは小さく、予想と違えば大きく動くことがあります。
ニュースとお金のつながりを見るには、何を見ればいいですか
「報道が挙げている理由」と「みんながどこまで予想していたか」の2つです。選挙なら、世論調査の数字と、勝ちそうな人がお金の使い方について何を言っているかを見ると、値段の動きとつながって見えてきます。
おわりに ― ニュースは、自分のお金の話です
ブラジルの選挙のニュースから、投資家は結果が決まる前に予想で先に売り買いする(織り込む)、というしくみを見ました。
これまで、第1回・第2回は中東の原油、第3回はAIのお金、第4回は金利、第5回は韓国の半導体、第6回はアメリカの物価を取り上げました。第7回からは会社の業績の見込み、みんなの心配の大きさ、株価指数の名簿、国にお金を貸すときの値段です。今回は、選挙の予想が値段に入っていく話でした。
このシリーズのテーマは、世界で起きたことを1つずつ取り上げて、小学生でもわかる言葉で読み解くことです。
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