10月27日、イスラエルで国会の選挙がありました。開票が約9割まで進んだ時点で、ネタニヤフ首相の陣営は53議席、対立するアイゼンコット氏の陣営は48議席。政権をとるのに要る61議席に、どちらも届いていません。
結果が出た翌日、イスラエルのお金「シェケル」はドルに対して約2%安くなり、株をまとめた数字(TA-125)は1日で2.46%下がりました。
勝った人がまだいないのに、なぜお金と株が下がったのか。今日は、このニュースから選挙のあとに「政権が決まらない」と、その国の株とお金が売られるしくみを見ていきます。どちらの陣営が政権をとると何が変わりそうか、これからの3つの行方も一緒に整理します。
こういうことがありました ― どちらの陣営も、過半数の61議席に届かなかった
イスラエルの国会は120議席です。政権をとるには、その半分より多い61議席(過半数)の賛成が要ります。開票が約9割の時点で、どちらの陣営も61議席に届いていません。

数字を並べると、こうなります。
- ネタニヤフ首相の陣営:53議席(過半数まで、あと8議席)
- アイゼンコット氏の陣営:48議席(過半数まで、あと13議席)
- アラブ系の2つの政党:合わせて19議席。どちらの陣営にも入っていません。アラブ系の政党としては過去最多です
政党ごとに見ると、ネタニヤフ首相の政党「リクード」が26議席で第1党、アイゼンコット氏の新しい政党「ヤシャル」が21議席で第2党でした。
選挙の前の世論調査(選挙の前に人の考えを聞いてまとめた数字)ではヤシャルが第1党と見られていたので、リクードが最後に巻き返した形です。
投票率は77.7%と高く、アラブ系の市民の投票も増えました。この選挙は、2023年10月7日のハマス(パレスチナのガザ地区を支配してきた武装組織)による攻撃のあと、はじめての国会の選挙です。
ここで、気をつけておきたいことが1つあります。開票約9割の議席は、まだ途中の数字です。兵士や外交官などの票(約12議席ぶん)がまだ数えられておらず、公式の結果は、11月4日に発表される見込みと報じられています。
開票のはじめのころは、ネタニヤフ首相の陣営が63議席という数字も出ていました。最初の速報だけで「勝った」「負けた」と読むと、見誤ってしまうのです。
選挙のあと、ネタニヤフ首相は「右派の強い政権をつくる」と話し、勝利の宣言はしませんでした。アイゼンコット氏は「政権づくりに全力を尽くす」と話しています。
リクードは「選挙はアラブ系の政党に盗まれた」と主張して捜査を求めましたが、選挙の管理の担当者はこれを退け、証拠も示されていません。
そもそもどこ? ― 中東の小さな国と、2人のリーダー
イスラエルは、中東(アジアの西の端、地中海に面した地域)にある国です。地図では小さな国ですが、半導体やITの会社が多い国として知られています。

地図では、2つの国に色を付けました。
- イスラエル(赤):地中海の東の岸にある国です。いちばん大きなお金の町はテルアビブで、株を売り買いする市場があります
- 日本(青):私たちの国です
使っているお金はシェケルです。日本のお金が「円」、アメリカのお金が「ドル」であるように、イスラエルのお金が「シェケル」です。「シェケルが安くなる」とは、1ドルと交換するのに、前より多くのシェケルが要るようになることです。
今回の選挙で、政権を争っているのは次の2人です。
- ネタニヤフ首相:これまでに3回首相になり、合わせて約19年。イスラエルでいちばん長く首相を務めている人です。右派(国の安全や宗教の伝統を重く見る考えの人たち)の政党をまとめています
- アイゼンコット氏:イスラエル軍の参謀総長(軍のトップ)を2015年2月から2019年1月まで務めた人です。新しい政党「ヤシャル」をつくり、ネタニヤフ首相に反対する人たちの中心になりました
そして、どちらの陣営にも入っていないアラブ系の2つの政党(統一リストとラアム)が、合わせて19議席をとりました。
なぜ株とシェケルが下がったのか ― 「次の政権が決まらない」が売られた
選挙の結果が出た翌日、イスラエルの株とシェケルは下がりました。報道が挙げている理由は「結果がはっきりしない」ことです。投資家は、次の政権がどんなお金の使い方をするかが分からないうちは、その国の株やお金を持つのをためらいます。

時間の順番に並べると、こうなります。
- 10月26日(月):イスラエルの株をまとめた数字(TA-125)は4,108でした
- 10月27日(火):投票の日。株の市場はお休みでした。シェケルは、この日に3週間ぶりの高さになりました
- 10月28日(水):結果が出て、どちらも61議席に届かないことが分かりました。TA-125 は4,007へ、1日で2.46%下がりました。シェケルはドルに対して約2%安くなり、火曜に上がった分の多くを戻しました
この日の動きについて、イスラエルの銀行のエコノミスト(経済の動きを調べて予想する専門家)は「政治の先が見えない。投資家は最終の結果を待っている」と説明しています。
つまり、どちらが勝ったから下がったのではなく、「次の政権がどうなるか分からない」こと自体が売られた、ということです。
イスラエルでは政党がいくつも組んで連立政権(いくつかの政党が組んでつくる政権)をつくるので、どの政党とどの政党が組むかが見えるまで、お金の使い方の見通しも立ちません。
選挙の前、投資家はどちらが勝つと見ていたか
選挙の前、投資家の多くは「アイゼンコット氏の陣営が政権をとれば、シェケルは高く、株も上がりやすい」と見ていました。
選挙の前の予測市場(どちらが勝つかをお金をかけて予想する場)では、アイゼンコット氏が首相になる見込みが約60%、ネタニヤフ首相が27%でした。アメリカの大手銀行JPモルガンは「選挙の結果しだいで、シェケルは最大3%動く」と見ていました。
投票の日にシェケルが3週間ぶりの高さになったのは、こうした見方の中でのことです。ところが結果は「どちらも過半数に届かない」でした。
復習:まだ起きていないことを、先に値段に入れる「織り込む」
第11回では、投資家は結果が決まる前に、予想で先に売り買いする(織り込む)、という話を見ました。

ブラジルの選挙では、第1回の投票の結果を見て「政府が代わりそうだ」と考えた投資家が、決選投票を待たずに株とお金を買いました。イスラエルでも、選挙の前から「政権が代わるかもしれない」という見方が、値段に入っていたのです。
結果がその予想どおりに進まなかったので、先に入っていた分が戻された、と見ることができます。くわしく知りたい方は、こちらからどうぞ。

これからの3つの行方 ― どちらが政権をとると、何が変わりそうか
イスラエルの選挙のあと、政党どうしが組む相手を探す話し合いが始まります。組み合わせしだいで、連立政権の行方は大きく3つに分かれます。

まず、手順です。公式の結果が出てから7日以内に、大統領(イスラエルでは政治の争いの外にいる国の代表)が各党の意見を聞いて、政権づくりを任せる議員を1人決めます。任された人には28日、延ばせばさらに14日(合わせて最大42日)あります。
それでもまとまらなければ別の議員に任せ、すべてうまくいかなければ国会は解散し、選挙のやり直しになります。新しい政権ができるまでは、今のネタニヤフ首相の政権が仮に続きます(暫定政権)。
1つ目:ネタニヤフ首相の陣営が政権をとる
ネタニヤフ首相の陣営は、あと8議席を集める必要があります。ネタニヤフ首相はアラブ系の政党とは組まないと言っているので、相手の陣営にいる政党を引き入れられるかが分かれ目です。
選挙の前、イギリスの銀行のエコノミストは「ネタニヤフ首相が続けば、イランとの緊張が高まりやすい」と見ていました。投資家の間では、この行方ならシェケルは安くなりやすい、という見方がありました。
2つ目:アイゼンコット氏の陣営が政権をとる
アイゼンコット氏の陣営は、あと13議席が要ります。アラブ系の政党の協力なしでは届きにくい数です。アイゼンコット氏は、アラブ系の政党と組む条件として「イスラエルをユダヤ人の国で民主主義の国と認めること」などを挙げています。
2021年には、アラブ系の政党ラアムがネタニヤフ首相に反対する政権に加わった例があります。選挙の前、イスラエルの投資会社のエコノミストは「野党が勝てば、シェケルは高くなり、国内の市場は好感する」と見ていました。
3つ目:どの陣営も組む相手が見つからず、もう一度選挙をする
どちらの陣営も組む相手を見つけられなければ、もう一度選挙をします。イスラエルでは、2019年から2022年の3年間に5回も国会の選挙がありました。そのたびに、ネタニヤフ首相が仮の首相を続けました。
この行方では、先が見えない時間が長く続きます。10月28日のように、「次の政権が決まらない」こと自体が売られやすくなります。
3つの行方を、クラスの委員長選びにたとえると
上の説明(過半数がないと、仲間を集めないと政権がつくれない)を、クラスの委員長選びにたとえてみます。

120人の大きなクラスで、委員長を決めることになりました。決めるには、61人の賛成が要ります。ところが、Aグループは53人、Bグループは48人。どちらにも入っていない19人もいます。
Aグループは8人、Bグループは13人、仲間を増やさないと委員長を決められません。
委員長が決まるまで、文化祭の出し物も、クラスのお金の使い道も決められません。クラスにお菓子を差し入れようと思っていたPTAの人も、「誰が委員長になるか決まってから考えよう」と待つでしょう。
たとえの中のものと、本文の話の対応は次のとおりです。
- 120人のクラスが、120議席のイスラエルの国会にあたります
- 61人の賛成が、政権をとるのに要る過半数の61議席にあたります
- Aグループ・Bグループ・どちらにも入っていない19人が、ネタニヤフ首相の陣営・アイゼンコット氏の陣営・アラブ系の2つの政党にあたります
- 差し入れを待つPTAの人が、次の政権が決まるまでお金を入れるのをためらう投資家にあたります
投資の目線で見ると ― 同じ日でも、下がった株と上がった株があった
イスラエルの選挙の結果が出た10月28日、株はみんな下がったわけではありません。銀行と保険の会社の株は下がり、防衛(軍の装備)と半導体の会社の株は上がりました。

10月26日の終値と比べた、10月28日の動きです。
- ハポアリム銀行:−4.5%
- レウミ銀行:−4.7%
- フェニックス(保険):−4.9%
- エルビット・システムズ(防衛):+1.7%
- タワーセミコンダクター(半導体):+6.1%
それぞれの会社の株が、なぜ上がった・下がったのかまでは、報道は書いていません。ただ、一般的なしくみとして、次のように見ることができます。
- 向かい風になりやすい:国の中でお金を貸したり、国のお金の行方に左右されやすい業種(銀行・保険)。連立政権の組み合わせが決まらないと、国の予算や金利(お金を借りるときに上乗せして払う利息の割合)の先行きが読みにくくなります。この日は、イスラエルの国債(国が借りるときに出す借用書)の利回り(借用書についている利息の割合)も上がりました
- 影響を受けにくい:国の外でもうけている業種(外国に売る防衛の装備・世界中の会社から注文を受ける半導体)。イスラエルの政治より、世界の注文のほうが、もうけを左右するからです
同じ「選挙で決まらない」というニュースでも、会社によって受ける影響は反対になることがあります。ニュースを見るときは「その会社は、国の中でもうけているか、外でもうけているか」を見ると、株の動きの意味が見えやすくなります。
日本とのつながり ― イスラエルの半導体の会社が、日本に工場をつくる
イスラエルの選挙の結果が出た日に約6%上がったタワーセミコンダクターは、2026年7月14日に、新潟県妙高市と富山県魚津市に光通信用の半導体をつくる拠点を整えると発表しました。総事業費は約6,000億円で、そのうち約1,600億円を経済産業省が補助する計画です。
遠い国の選挙のニュースでも、日本に工場をつくろうとしている会社の株が、その日のうちに動いていたことになります。遠い国の話に見えても、日本の工場の計画と同じ会社の名前が出てくるのです。
原油の値段とのつながりについては、エルサレムにいる日本の記者が「ネタニヤフ首相が続投すれば、トランプ大統領の中間選挙後にイランへ再攻撃する可能性が高まり、原油価格は高止まりすると見られる」と伝えました。
つまり、どちらが政権をとるかで中東の争いの行方が変わり、それが原油の値段にも届くかもしれない、という見方です。ただし、今回の選挙の結果で原油の値段が動いたと伝えた報道はありません。
※特定の銘柄(株を売り買いできる1つ1つの会社)をすすめるものではありません。
今日の言葉 ― 「連立政権」
「連立政権」は、1つの政党だけでは過半数に届かないとき、いくつかの政党が組んでつくる政権のことです。

- 誰が:選挙で議席をとった、いくつかの政党が
- 何を:「どの政策を進めるか」「誰が大臣になるか」を話し合って
- どうする:組んで、合わせて過半数の議席にして、政権をつくります
- 今回は:第1党のリクードでも26議席です。イスラエルでは1つの政党だけで過半数をとることはほとんどなく、政権はいつも連立政権です
連立政権は、組む相手しだいで、政権の考え方が大きく変わります。だから選挙のあとは、「どこが勝ったか」だけでなく、「どこと、どこが組むか」が、その国のお金の使い方と、株やお金の値段を左右します。
よくある質問
イスラエルの選挙は、どちらが勝ったのですか
まだ決まっていません。開票が約9割の時点で、ネタニヤフ首相の陣営が53議席、アイゼンコット氏の陣営が48議席で、どちらも過半数の61議席に届いていません。公式の結果は、11月4日に発表される見込みと報じられています。
結果が決まっていないのに、なぜ株とシェケルが下がったのですか
次の政権がどうなるか分からないからです。投資家は、国のお金の使い方が見えないうちは、その国の株やお金を持つのをためらいます。10月28日、イスラエルの株(TA-125)は2.46%、シェケルはドルに対して約2%下がりました。
シェケルとは何ですか
イスラエルのお金です。日本の円、アメリカのドルと同じです。1ドルと交換するのに要るシェケルが増えることを「シェケル安」と言います。
連立政権とは何ですか
1つの政党だけで過半数に届かないとき、いくつかの政党が組んでつくる政権です。イスラエルでは1つの政党だけで過半数をとることはほとんどなく、いつも連立政権になります。
政権が決まるまで、どれくらいかかりますか
公式の結果が出てから7日以内に、大統領が政権づくりを任せる議員を決めます。任された人には28日、延ばせば最大で42日あります。それでもまとまらなければ別の議員に任され、最後までまとまらなければ選挙のやり直しです。
日本の私たちと、関係はありますか
イスラエルの半導体の会社タワーセミコンダクターが、新潟県と富山県に約6,000億円をかけて工場の拠点を整える計画を発表しています。この会社の株は、選挙の結果が出た日に約6%上がりました。
選挙のあと、株はずっと下がるのですか
そうとは限りません。テルアビブの証券取引所の調べでは、これまでの10回の選挙のあと、数週間は株の揺れが大きくなりましたが、最初の下げはたいてい1か月ほどで戻っています。ただ、今回もそうなるとは決まっていません。
おわりに ― 選挙のあとは「誰と誰が組むか」で、お金が動く
イスラエルの選挙のニュースから、選挙のあとに次の政権が決まらないと、その国の株とお金が売られる、というしくみを見ました。今回は、どちらの陣営も過半数に届かず、結果が出た翌日にシェケルと株が下がりました。
そして、同じ日でも、国の中でもうける銀行や保険の株は下がり、外でもうける防衛や半導体の株は上がりました。
これから11月4日に公式の結果が出て、政党どうしの話し合いが始まります。どこと、どこが組むかが見えてきたとき、シェケルとイスラエルの株がどちらに動くかを見ると、投資家が次の政権に何を期待しているかが、数字で見えてくるはずです。
このシリーズでは、世界で起きたことを1つずつ取り上げて、小学生でもわかる言葉で読み解いています。
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