AI の会社 Anthropic(アンソロピック)が、アメリカで株式の上場(IPO)をするための届出書を出し、その中身が公開されました。2026年1〜6月の売上は約14倍に伸びた一方で、最終的な赤字は約807億ドル(約12.7兆円)でした。
それでも、この上場には世界中の投資家の目が集まっています。なぜ赤字の会社が上場できて、なぜこれほど注目されるのか。答えは、赤字の中身と、アメリカの株の値段の決まり方にありました。今日は、日本とアメリカの上場のちがいも並べながら、順番に見ていきます。
こういうことがありました ― Anthropic が上場の届出書を公開
Anthropic は2026年10月26日、アメリカの証券取引委員会(SEC=株の売り買いのルールを守らせる国の役所)に、上場のための届出書「S-1」を出しました。日本時間では26日の夜10時ごろです。

Anthropic は、対話する AI「Claude(クロード)」をつくっている、アメリカの会社です。届出書には、株を売り出すアメリカの市場はナスダックで、銘柄(売り買いされる株の名前)を表す記号は「ANT」で申請していると書かれています。
届出書は、会社の中身を投資家に知らせるための、とても長い説明書です。今回わかった主な数字はこちら。
- 売上(2026年1〜6月):162.86億ドル。前の年の同じ時期(11.63億ドル)の約14倍
- 本業の赤字(営業損失):6.93億ドル。前の年の同じ時期(21.35億ドル)から約3分の1に縮んだ
- 最終的な赤字(純損失):807.48億ドル(約12.7兆円)
- 手元のお金:現金と短い期間の投資で、約1,317億ドル(約20.6兆円)
ただ、売り出す株の数や値段、いくら集めるかは、まだ空欄です。上場の日も決まっていません。報道では、取引が始まるのは11月中旬から下旬、会社全体の値段は1.5兆〜2兆ドル(約235兆〜314兆円)になる見込みと伝えられています。
どれも見込みで、確かな数字ではありません。
※円の金額は、10月26日の1ドル=156.83円で計算しています。
そもそも、Anthropic とはどんな会社か
Anthropic は、AI「Claude」をつくって、会社や個人に使ってもらうことで売上を立てている会社です。お金を出している大きな会社には、Google と Amazon があります。

売上の伸び方は、とても急です。
- 2023年:0.41億ドル
- 2024年:3.86億ドル
- 2025年:45.85億ドル
- 2026年1〜6月(半年だけ):162.86億ドル

上場の前から、Anthropic は何度もお金を集めてきました。2026年5月には650億ドルを集め、そのときの会社全体の値段(評価額)は9,650億ドル(約151兆円)でした。このとき Google が100億ドル、Amazon が50億ドルを出しています。
1株の値段も上がっています。2026年1〜2月にお金を集めたときは1株259.14ドル、5〜6月には589.01ドルでした。数か月で約2.3倍です。
日本でも、2025年10月に東京のオフィスを開きました。開いたときは3人でしたが、1年後には50人を超えています。
なぜ赤字なのに上場できるのか ― 日本とアメリカの上場のちがい
日本でも、赤字のまま上場することはできます。ちがうのは、上場する会社の【大きさ】と、アメリカで赤字の上場がふつうになっていることです。
日本でも、赤字で上場はできる
日本の会社は黒字を見せて上場する、というイメージがあるかもしれません。たしかに東京証券取引所(東証)の市場のうち、プライム市場とスタンダード市場には、利益の条件があります。
- プライム市場:最近2年間の利益の合計が25億円以上(または、最近1年の売上が100億円以上で、会社全体の値段が1,000億円以上)
- スタンダード市場:最近1年間の利益が1億円以上
- グロース市場:利益の条件はなし。そのかわり、事業の計画がきちんとしているかを見る
東証は、上場の審査のよくある質問で「赤字上場は可能です。グロース市場において上場までの黒字化を求める制度はありません」と答えています。実際に、宇宙の会社の ispace は2023年に、赤字のままグロース市場に上場しました。
メルカリも2018年に上場した年の決算は、70億円の赤字でした。
ただ東証は同じ答えの中で、上場できることと、投資家に評価されることは「また別の話」とも書いています。上場の入り口を通っても、値段がつくかどうかは投資家しだい、ということです。
アメリカでは、赤字で上場する会社のほうが多い
アメリカでは、赤字のまま上場する会社のほうが多数派です。フロリダ大学のジェイ・リッター教授がまとめている上場の統計では、2011〜2025年に上場した会社のうち、70%が赤字の会社でした。

アメリカの SEC は、上場する会社の良し悪しを判断しません。SEC の投資家向けの説明では、届出を受けても「その IPO の中身を認めたことにはならない」とし、売り出しの値段は「会社と、株を売り出す証券会社が決める」と書いています。
会社が中身をくわしく書き出し、買うかどうかは投資家が決める、という形です。
ちがうのは「大きさ」
日本とアメリカでは、上場する会社の大きさがまったくちがいます。
- 日本のグロース市場:上場したときの会社全体の値段は、真ん中の値で約60億円。集めるお金は約5億円
- アメリカ(2025年):上場したときの会社全体の値段は、真ん中の値で約15.55億ドル(約2,439億円)。集めるお金は約2.46億ドル(約386億円)
東証は、グロース市場で小さな上場が多いことを課題として、2030年3月から「上場して5年後に会社全体の値段が100億円」を上場を続ける条件にすると決めました。
約12兆円の赤字の中身 ― 約9割は「会社の値段が上がった」ことで出た費用
Anthropic の最終的な赤字807億ドルのうち、約9割の723.88億ドルは、会社の値段が上がったことで帳簿の上に出た費用です。本業の赤字は6.93億ドルで、売上の約4%まで縮んでいます。

Anthropic は、「あとで会社の株に換える」という約束でお金を借りていました(転換社債など)。株に換わるまでは、この約束の値打ちを毎回はかり直します。
会社全体の値段が上がると、約束の値打ちも上がり、借りた側の負担が増えたことになって、費用として数えられます。
届出書にも「会社の値段が上がるほど、この費用は増える」と書かれています。つまり、会社の人気が上がるほど赤字が大きく見えるという、ふつうとは逆の形です。
お店のたとえで考えると
上の説明(会社の値段が上がるほど、帳簿の上の赤字がふくらむ)を、町のパン屋さんにたとえます。

町のパン屋さんが、友だちから「あとでお店の持ち分に換えてあげる」という約束で、お金を借りたとします。そのあと、お店が大人気になって、お店全体の値段がぐんと上がりました。
すると、友だちが受け取る「お店の持ち分」の値打ちも上がります。帳簿の上では、パン屋さんが返すものの重さが増えたことになり、それを「損」として書きます。でも、そのぶんのお金が、お店のレジから出ていったわけではありません。
- お店の人気が上がることが、Anthropic の会社の値段が上がったことにあたります
- 持ち分に換える約束が、転換社債などにあたります
- 帳簿の上の「損」が、723.88億ドルの費用にあたります
実際に、2026年1〜6月の Anthropic の、本業でのお金の出入り(営業活動のキャッシュフロー)は39億ドルのプラスでした。
なぜこれほど注目が集まるのか ― 値段は「この先の伸び」で決まる
株の値段は、いまの利益よりも、これから稼ぐ見込みで決まります。Anthropic の IPO(新規上場)は、AI がこの先どれだけ稼ぐと投資家が見ているかが、市場の値段として出る場になります。

報道に書かれている、注目の理由はこの3つです。
- 規模が大きい:NBC やフォーチュンは「史上最大級の上場」と伝えています。集めるお金は1,000億ドル(約16兆円)を超える見込みと報じられました。これまでの記録は、2026年6月に上場したスペースXの750億ドル、その前は2019年のサウジアラムコの256億ドルです
- AI への期待を測る場になる:ロイターは、この上場を「投資家のAIへの意欲を測る重要な試金石」と伝えました
- ライバルより先に上場する:ロイターによると、ChatGPT の OpenAI は2027年初めまでの上場を見込んでいて、Anthropic が先になる見通しです
赤字で上場して、伸びた会社とつまずいた会社
赤字で上場した会社が、みんな伸びるわけではありません。
- Amazon:1997年に1株18ドルで上場しました。その年は2,759万ドルの赤字でしたが、売上は前の年の約9倍に伸びていました
- Uber:2019年に1株45ドルで上場しましたが、初日の終わりの値段は41.52ドルで、売り出しの値段より7.7%下がりました
- WeWork:2019年に上場の届出を出しましたが、取り下げて上場を取りやめました
リッター教授の統計では、上場して3年たったあとの株の成績は、黒字で上場した会社のほうが、赤字で上場した会社より年に6%ほどよい結果でした。赤字で上場した会社の株は、「この先の伸び」への期待どおりに上がるとはかぎりません。
投資の目線 ― 上場で得をしやすい立場
Anthropic の IPO で得をしやすいのは、先にお金を出した会社と、AI を動かす計算の場所を貸す会社です。上場したあとの値段がどうなるかは、まだ誰にもわかりません。

- 先にお金を出した会社:Google や Amazon は、上場の前に Anthropic の株になる権利を持っています。上場で値段がつけば、持っている分の値打ちがはっきりします
- 計算の場所を貸す会社:Anthropic は Amazon に、2036年4月までに少なくとも1,100億ドルを計算の代金として払う約束をしています。お金を出した相手が、大きなお客でもある関係です
- 株を売り出す証券会社:ゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーを中心に、22社が並んでいます。みずほと三菱UFJのアメリカの会社も入っています
届出書で、Anthropic の売上の伸び方と赤字の中身が、数字で書き出されました。ただ、10月26日と27日に、この届出を理由に株が動いたと書いた報道は、見つかっていません。
今日の言葉 ― 「IPO(新規上場)」
IPO は、会社が初めて株を取引所に出して、誰でも売り買いできるようにすることです。会社は新しい株を売ってお金を集め、それまでの株主は持っている株を売れるようになります。

- 上場の前は、株を持てるのは一部の投資家や会社だけです
- 上場すると、取引所で毎日値段がつきます
- 値段は、会社のいまの利益だけでなく、これから稼ぐ見込みで決まります
- 赤字でも上場はできますが、上場できることと、投資家に評価されることは別の話です
上場は、会社の「この先の伸び」に、初めて市場が値段をつける日です。次に IPO のニュースを見たときは、売上がどれだけ伸びているか、赤字の中身は何か、の2つを見ると、注目される理由が読みやすくなります。
よくある質問
Anthropic は、いつ上場しますか
まだ決まっていません。報道では、11月中旬から下旬に取引が始まる見込みと伝えられています。届出書には日付が書かれていません。
上場の届出書とは、何ですか
アメリカで株を広く売り出すときに、SEC に出す書類です。会社の事業、お金の数字、危ないところ(リスク)などが書かれています。SEC は、書類を受け取っても、会社の良し悪しを保証するわけではありません。
赤字なのに、どうして上場できるのですか
アメリカのナスダックには、利益がなくても、会社の大きさや売上で上場できる条件があります。日本でも、東証のグロース市場なら、利益の条件なしで上場を目指せます。
約12兆円の赤字は、本当にお金がなくなったのですか
約9割(723.88億ドル)は、会社の値段が上がったことで帳簿の上に出た費用です。本業の赤字は6.93億ドルで、2026年1〜6月の本業でのお金の出入りは39億ドルのプラスでした。
日本の会社は、関係がありますか
株を売り出す22社に、みずほと三菱UFJのアメリカの会社が入っています。また、Anthropic は2025年10月に東京のオフィスを開いています。
日本からも、Anthropic の株は買えますか
届出書には、日本での売り出しも含むと書かれています。ただ、どの証券会社で、いつから買えるかは、まだ書かれていません。株はアメリカのナスダックで売り買いされる予定です。
上場すれば、株は必ず上がりますか
わかりません。赤字で上場して大きく伸びた Amazon のような会社もあれば、上場した日に値段が下がった Uber のような会社もあります。
おわりに ― 上場は「この先の伸び」に値段がつく日
Anthropic(アンソロピック)の上場で、売上が半年で約14倍に伸びた一方、約12兆円の赤字が出ていることがわかりました。ただ、その約9割は、会社の値段が上がったことで帳簿の上に出た費用でした。
日本でも赤字で上場はできますが、アメリカでは赤字の上場が7割と多数派で、上場する会社の大きさも大きくちがいます。だからこそ、株の値段は、いまの利益より「この先の伸び」で決まる、という見方が、アメリカの上場ではよりはっきり出ます。
上場の日が近づくと、売り出す株の数と値段の幅が届出書に書き足されます。そのとき、会社全体の値段がいくらになるかを見ると、AI に投資家がどれだけ期待しているかが、数字で見えるはずです。
このシリーズでは、ニュースを1つずつ取り上げて、小学生でもわかる言葉で読み解いています。
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